歌:宮城まり子
作詞:矢代静一
作曲:林光
君遠く去れば 遠く 遠く 去れば
君の姿 いやましに 我がこころに
「ハイ、こんにちは。みなさん」
十二月 雪がチラホラ 降る宵に
どぶ川の 橋の手すりで 泣いてた私
私のお腹は ペコポコン おもちゃの人形
降る雪が 白い砂糖で
どぶ川の 川の流れは 溶けて流れた 黒砂糖
あの煙突はコッペパン
景色はみんな美味しく見えました
「すてき、ああ、すてき」
ところへ あいつがやって来て
場末の生まれのお前じゃねえか
雪をながめて何になる
雪は雪 白いは白い 詩人の寝言は沢山だ
さあ 雪かきを手伝いなよ
あいつは 手まねで 云いました
十二月 春には遠い月でした
なのに あいつはアンダーシャツ一枚
汗にまみれた ごつい胸に
胸毛が ゴシャゴシャ
「ハイ、こんにちは。熊おとこ」
あんたの親切は 嬉しいけど
障りながら 見当はずれ
あたしのおへその ここらあたりに
耳をあてて あたしの悩みを聞いてごらん
"ポコン ペコン グウ グウ"
「すると何かい、
かわいいお前は腹を空かして、泣きの涙かい」
「あいつはやにわに抱きました」
分厚い胸に 類うずめて
小鳥の私は 震えたの
お砂糖よりも ずっとずっと甘いくちづけ
「もうチート時勢が良くなりゃ女房にするつもり
目にものをいわせて、云いました」
それからちょっと間をおいて
あいつは初めて 口をききました
「し、し、し、信じておくれよ
お、お、お、おいらのこ…とを」
「十二月。どぶ川の、雪降る宵のラブシーン」
「そうして、こうして、色々あって、
春、夏、秋、冬。一年めぐり」
「ハイ、こんにちは。あたしのアンタ」
あいつは今ではそば屋の出前
あたしはおもちゃの自動車の
ゼンマイこさえる女工の身分
女王さまと 女工さまは 一字違いの仲良しだけど
真実 あたしは つらかったのよ
あたしの月給は 五千円
あいつは 四千三百十円
「でも、三食付きの住み込みだもの。
あいつの方がまだましなのよ」
「十二月、またやって来た雪の季節。どぶ川のほとりにて、
ここに若く貧しい女と、同じく若く貧しい男が
あてのない未来について、語り明かしぬ」
部屋は 間借りの四畳半
出来れば 雨の漏らない天井
子どもは 一姫二太郎で
子どもの教育は しつけが肝心
ガキとか カカアとか
下品な言葉は使うなかれ
「十二月。破れ蛇の目の相合傘。
手がかじかんで、あかぎれの、まるくふくれた指を見て
あいつはポツンと、やっと一言」
「か、か、か、勘弁しろよな。
あ、あ、あ、愛の巣は、ら、ら、ら、来年つくってみせらァ」
それが去年の十二月
そうして今も十二月
どぶ川にまた降り積もる 雪を見て
「ハイ、さようなら。わたしのアンタ」
「悲しい話は端折ってしましょう。
よせばいいのに、あいつときたら、一旗あげに炭鉱へ。
慣れぬ身体で重労働、胸毛は生えても都会の生まれ。
風邪がもとで、逝っちゃったの、あっちの方へ。
どもりのあいつは遺言、どもって、チョビっと言っただけさ」
「せ、せ、せ、折角貯金ができたのに、
お、お、お、おいらは馬鹿だ」
「そ、そ、そ、そうとも、そうよ。
あ、あ、あ、あんたは馬鹿よ。
こ、こ、こ、これからあたしは、どうしたらいいの」
十二月 どぶ川のほとりに
じっと うずくまり
雪の上に絵を描く あたし
あいつの 太い眉毛を描いて
次は あいつの団子鼻
大事な 大事な あいつのくちびる
くちびるの上に 雪降り積もり
消えてゆく 消えてゆく
あいつの笑顔
「ハイ、こんにちは。みなさん」
十二月 雪がチラホラ 降る宵は
元気でニコニコ 生きてゆきましょう
元気でニコニコ 生きてゆきましょう
「ニ、ニ、ニコ、ニコニコ
ニ、ニ、ニコ、ニコニコ
ニコニコ ニコニコ
ニ、ニコニコ ニコニコ ニコニコ
ニコニコ…」
(君遠く去れば 遠く 遠く 去れば
君の姿 いやましに 我がこころに)
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